人工内耳のリハビリテーション

井脇言語療法士による解説


 人工内耳による最終的な目的は、なるべく自然に近い状態で音声言語(話し言葉)によるコミュニケーションがとれるようになることです。

 しかし、同じ人工内耳の機器を使用しても、それによって得られる「きこえ」は、個人差が大きいのです。 個人差が生じる原因としては、聞こえなくなった原因、何歳で聞こえなくなったか、難聴の期間・全く聞こえなかった期間、現在の年齢などがあげられます。

 人工内耳の装置は改良が急速に進み、人工内耳装置による聞き取りの改善にはめざましいものがあります。それに伴ってもリハビテーションの内容や方法、期間も変わってきます。

 リハビテーションという言葉の意味は「もともと備わっていた能力や機能、さらに権利を回復させること」です。 以下の説明は、言葉を習得してから失聴された成人を対象としますのでリハビテーションと称することにします。

 人工内耳に関わらず、どのリハビテーションでも同様ですが、いろんな職種のチーム医療が重要です。 特に補聴器と異なり、人工内耳は手術をしないと使用できませんから、医師を中心としたチームが編成されます。 医師の他には主に言語聴覚士(一般に“ST”と呼ばれる)、そして、臨床心理士、医療相談士の協力と参加が必要です。 人工内耳手術の前から患者さまに関わり、その適応を医学的な面からだけでなく、補聴器でどれくらい聞こえるのか、口元を見れば会話がどのくらいできるか、家族の理解は得られているか、心理的に安定しているかといったような面からも関わっていきます。

術後のリハビテーション

1) スピーチプロセッサ(人工内耳音声処理装置)の調整

 術後約10〜14日後、傷跡が癒え、抜糸後に音入れ(人工内耳が聴こえるように操作すること)をします。 人工内耳使用者の聴神経の電気刺激に対する反応を基にプログラムを作成します。 これは、主観的方法なので何度か調整する必要があります。 また、体調、薬物使用、精神的状態に影響を受けますし、電気刺激に対する反応は個人間で大きく異なります。各自の持つ能力を最大に活用できることを目標にプログラム作成を行いますが、聞こえ方にはかなりの個人差があります。

2) スピーチプロセッサ装用による聴覚活用の指導と評価

 人工内耳による聞き取り能力は個人差が大きいため、指導は通常個別で行います。 個人によっては、装用1ヶ月で電話が可能な人もいますし、装用後、数年経過しても言葉の聴覚理解は難しいという人もいます。 聞こえの状態については語音の聞き取り検査を利用して評価し、その結果を指導に生かすようにしております。 聴覚活用の指導は、会話や文章のような教材を用いた総合的な聞き取りと、一音の違いを聞き分ける分析的な方法をハバランスよく行うようにしています。 また、日常生活の場における聞き取りの環境を整えていく指導・助言も併せて行います。

3) 機器に関する問題の早期発見と迅速な対応

 機器に関する問題には、中に埋め込まれている電極の破損やショートの他に外部装置の故障等があります。 これらは術後早い時期からみられ長期にわたって、非常に希にですが出現します。 人工内耳を長期に安全に、かつ快適に装用するため時々病院でチェックを受けることが望まれます。 電極のショートによる不快感のほとんどはプログラム調整により解決できます。

 外部装置の故障も来院時に対処可能なことが多く、もし、機器を修理に出す必要が生ずれば、修理期間中は、メーカーより機器の貸し出しが可能です。

4) 家族や心理的援助を含めた聴覚環境の整備

 人工内耳装用のリハビテーションを円滑に行うためには、手術後の人工内耳による聴覚利用の指導だけでなく、手術前から医療関係者と患者(家族を含めて)との間の信頼関係を築いておくことも不可欠です。 手術前によく説明をし、実際に埋め込み術を行った患者さまに合って話を聞く機会を設けることにより、少しでも術前の不安を取り除き、正しい理解を得られるようにしています。 関西地区には人工内耳友の会「関西」がありますので、その集まりに術前より参加されて、納得のいくまで情報を集められる方もおります。

 一方、術前後に各種の心理検査を施行し、その結果を術後のリハビテーションに役立てるとともに、心理的なサポートを行うようにしています。 手術を希望されている方も、人工内耳の可能性と限界を理解する努力を惜しまず、コミュニケーションの補助機器として最大に利用していただきたいと思います。 納得して使用できるようになるまでには数カ月から1年、人によってはそれ以上かかる場合もあり、その間に周囲の精神的な援助が必要となってきます。 家族の方も、あせらずご協力をしていただきたくお願いいたします。

5) 機器の管理

 人工内耳は湿度に弱く水気を嫌います。電池やケーブルが切れたら聴こえませんし、マイクの精度が劣化すると聞こえの状態も悪くなります。 これらの点検は自分でもできます。 消耗品のケーブルなどは、常に予備を持っておくほうが安心でしょう。

6) 装用指導の必要性

 補聴器でも人工内耳でも、使い慣れるのにある程度の期間が必要です。 ちょっと使っただけで諦めないで、聴覚や機器についての理解を深めていただきたいと思います。機器の適合だけでは不十分で、不自然な音入力を利用して聴覚を活用できるように指導する必要があります。

7) 個人差や限界の理解

 補聴器も人工内耳も健聴者が音を聞くように自然な感じではなくひずんで聴こえます。 そのため、(1)音は聞こえるが、言葉がはっきりしない。 (2)周囲に雑音があると言葉が聞き取りにくい。 (3)少し距離が離れると聞きづらい。 (4)対面で相手を見て話す場合は良いが、人工内耳だけでは言葉がわからない。 (5)人の声質によって聞き取りやすい音と聞き取りにくい音がある。 (6)テレビ、ラジオ、電話がわかりにくい。 (7)音楽が分からない。 等の不満が聴かれます。 雑音をある程度、抑えることは可能ですが、それを行うと同時に言葉の聞き取りも低下します。 調整を行う者はその対策を考える必要がありますし、使用者は限界を理解して利点を受け入れる姿勢を持つことが望まれます。


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