大阪大学医学部での講義(2008年2月12日)

食道癌の放射線治療


1)食道癌についての予備知識
 死亡数は年間約1万1千人(2007年人口動態統計http://www.ncc.go.jp/)で、悪性新生物の3.4%、男女比は5.5:1である。原因として飲酒、喫煙、熱い食事などが考えられている。病理診断は92-93%が扁平上皮癌である。症状は通過障害、吐血などがあげられる。

食道は解剖学的に頚部、胸部上部、胸部中部、胸部下部、腹部食道に分けられているが、胸部中部食道からの発生頻度が52%と最も高い。

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UICC(2002)での病期分類では、深達度によりTis、T1-4に分けられる。食道疾患取扱い規約ではTis(EP)はT1aに分類されるが、このうち粘膜層mucosaまでのT1aを早期癌、粘膜下層submucosaまでのT1bを表在癌という。いづれもリンパ節転移の有無は問わない。


2)食道癌の治療方針
食道癌の治療方針は、まず遠隔転移の有無、次にリンパ節転移の有無、そして最後に腫瘍の深達度により決定される。すなわち、遠隔転移を認める症例では対症的治療として化学療法や通過の改善を目ざした局所照射あるいはステント挿入、遠隔転移がなくリンパ節転移を認める症例では外科治療、リンパ゚節転移がなく深達度が筋層を越えている場合(T4)では化学放射線療法、筋層内に留まる腫瘍(T1b-T3)では外科治療、リンパ節転移のないT1aの表在癌では粘膜切除(EMR)が第一選択となる。ただし、近年、後述する化学放射線療法が外科治療に匹敵する治療成績を報告しており、治療法の選択枝が増えている。また、粘膜切除術の適応拡大も図られており、患者の希望、年齢、全身状態等により治療法の選択の幅が広がっている。一方、放射線単独治療は表在癌、高齢者、合併症を有し外科治療や化学放射線治療の困難な症例を中心に行われている。(下図)なお、米国では腺癌が50%以上を占めていることもあり、I−III期では外科的治療が標準的治療となっている。(http://cancer.gov/cancerinfor/pdq/treatment)


3)放射線治療法

放射線治療の治療計画はバリウム造影によるX線シミュレータ(下図左)とCT装置を用いるCTシミュレータ(右)の2つの方法が用いられるが、食道外への腫瘍進展範囲の同定にはCT画像情報を元に計画できるCTシミュレータが優れている。

なお、放射線治療計画においては5つの体積の概念を理解しておく必要がある。すなわち、肉眼的腫瘍体積GTV(Gross tumor volume)、臨床的標的体積CTV(Clinical target volume)、生理的動きを含む内的標的体積ITV(Internal target volume)、計画標的体積PTV(Planning target volume)そして治療体積(Treated volume)である。(下図)GTVは原発巣とリンパ節転移巣の体積であり、CTVはGTVに微視的な腫瘍浸潤を含む体積、ITVとはCTVに呼吸、嚥下、心拍動、蠕動などの体内臓器の動きによる影響を含めた標的体積、PTVはさらに毎回の照射における設定誤差(SM, set-up margin)を含めた標的体積、そして治療体積はPTV内の最小線量で囲まれる体積である。なおCTVは原発巣とその周囲の微視的な腫瘍浸潤を含むCTV1と微視的なリンパ節転移のCTV2に分けられる。

食道癌は高率にリンパ節転移をきたすが、原発巣の位置によりその転移部位は異なる。たとえば、頚部食道では上縦隔や頚部リンパ節、胸部下部食道では腹腔内リンパ節に転移が認められることが多い。従って、PTVはCTVにより異なることになる。転移の少ないEP-LPMではリンパ節の予防照射領域(CTV2)は含まず、局所に対して照射野が設定されるが、リンパ節転移の頻度の高いMM以上では通常はリンパ節転移頻度の高い食道癌取扱い規約の第2群のリンパ節領域を予防照射領域に含むように照射野を設定する。ただし、年齢や全身状態を考慮して主治医の判断で修正される。腫瘍の占拠部位と照射範囲の概略を下図に示す。

(日医放 62: 801-807, 2002)
放射線単独療法では60 Gy/30回/6週間以上の照射を原則とする。照射方法は前後対向2門照射により40Gy照射後、脊髄を避けるように斜入対向2門照射で20−30Gy追加するのが一般的である。ただし、頚部食道癌ではdouble wedge法などの方法を用いることがある。
なお、食道癌治療ガイドライン(2002年12月版)に基づく深達度別の照射線量は以下のとおりである。
EP-LPM癌:原発巣に外部照射60 Gy/30回/6週あるいは外部照射50 Gy/25回/5週+腔内照射8-12 Gy/3-4回/1-3週
MM-sm2癌:原発巣と第2群のリンパ節領域を含む領域へ外部照射60-66 Gy/30-33回/6-6.5週あるいは外部照射50-60 Gy/25-30回/5-6週+腔内照射8-16 Gy/3-4回/1-4週
進行癌(T2-4):原発巣と第2群のリンパ節領域を含む領域へ外部照射60-70 Gy/30-35回/6-7週あるいは外部照射60 Gy/30回/6週+腔内照射8-12 Gy/2-3回/1-3週

治療成績は、遠隔転移を伴わない食道癌の5年生存率(日癌治 27:912−924、1991年)は、I期24.2%、II期8.6%、III期3.8%であり、外科的治療と比べて不良である(下図)。


4)化学放射線療法
最近、全身状態のよい症例に対して局所制御率の向上と遠隔転移の予防を目的に化学療法と放射線治療の同時併用療法が積極的に試みられている。化学療法剤(シスプラチン/5FU)と放射線治療(50 Gy/25回/5週間)を用いた第3層試験(JCO 15:277-284, 1997)では放射線治療単独群と比べて5年生存率は有意に良好である(27% vs 0%)(下図)。


またわが国の国立がんセンターからの報告では化学放射線療法は外科治療とほぼ同等の治療成績である。(Int.J. Radiation Oncology Biol. Phys. 57: 425-433, 2003)。(下図)ただし、長期生存例の検討では晩期の心臓合併症(心外膜炎など)が報告されており、照射線量や照射方法の検討が進められている。


5)腔内照射法の併用
大部分の食道表在癌に対しては通常粘膜切除術が選択されるが、腫瘍が予想以上に深く浸潤していた場合(MM以上)、5 cm以上の広範囲に拡がる場合、リンパ管浸潤を認めた場合、低分化扁平上皮癌などでは放射線治療の追加が必要となる。
腔内照射は肺や心臓などの周辺臓器への線量を増やすことなく局所線量を増やして制御率を高めることができる。2重のバルーンアプリケータ(下図左)を用いることで線源から一定の距離を保って食道表在の腫瘍に均等な照射が可能となる。T1−2期で5cm以下の腫瘍では腔内照射群は外照射単独群に比べて5年生存率は有意に良好であった(64% vs 31.5%)(IJROBP 45:623-628,1999)(下図右)。ただし、化学放射線療法の普及に伴い減少傾向にあり、
食道癌診断治療ガイドラインではその有用性については明らかでないとしている。



肺癌の放射線治療

1)肺癌についての予備知識
死亡数は年間約6万2千人(2007年人口動態統計)で、悪性新生物の19%、男女比は2.7:1である。原因として喫煙が考えられている。病理診断は男性では約40%が扁平上皮癌、女性では約60%が腺癌である。初発症状は咳、血痰などがあげられる。

治療戦略の違いから非小細胞癌と小細胞癌に分けられる。非小細胞癌は外科的治療が第一選択だが、切除可能な症例は20−30%であり、大部分は放射線療法・化学療法が選択される。すなわちI、II期およびIIIA期の一部の症例は外科的治療が選択され、全身状態や合併症のため手術困難な症例に対して化学療法・放射線治療が選択される。IIIA期の一部とIIIB期症例では放射線治療単独あるいは化学放射線療法が選択される。IV期症例では原則的に化学療法が選択される。一方、小細胞癌はI期症例では外科治療が選択されるが、II−III期症例では化学放射線療法、IV期症例では化学療法が選択される。

2)肺癌の放射線治療法
肺癌の放射線治療計画は食道癌の場合と同様にX線シミュレータを用いる方法とCTシミュレータを用いる方法があるが、前者においても診断用のCT画像を参考に計画するが、後者は縦隔病変や胸壁に沿って広がる浸潤性病変の同定しながら計画が可能なためより精度の高い治療計画を実現することができる。

肺癌の多くは肺野ー肺門ー縦隔と順次性にリンパ節転移をきたすと考え、治療計画においてはその点を考慮して照射野が設定される。しかし、扁平上皮癌以外の組織型では必ずしも順次性が認められない場合があり、また血行性に遠隔転移をきたすことがある。

照射範囲の設定においては原発腫瘍とリンパ節転移巣をGTVとし、さらに微視的なリンパ節転移部位を含む範囲をCTVとしてPTVを設定する。すなわち、原発巣、肺門・縦隔・鎖骨上窩リンパ節領域を含む範囲を照射野とする。

腫瘍の局所制御率は文献的考察から照射線量と相関することが示されている。(IJROBP 21: 779, 1991)

すなわち、局所制御に必要な線量として顕微鏡レベルの腫瘍細胞では50Gy、肉眼的レベルでは60Gy以上が必要で、3cm以下の腫瘍でも70−75Gy、3−5cmでは75Gy以上の線量が必要と考えられている。一方、予後と照射線量に関する臨床試験の結果、標準的な照射線量は非切除非小細胞肺癌では60Gy/30回/6週とされている。(IJROBP 12: 539, 1986)

3)非小細胞肺癌に対する過分割照射と化学放射線療法
大きな腫瘍ほど大線量が必要である。その理由として、腫瘍内の低酸素細胞などの放射線抵抗性腫瘍の存在が考えられている。放射線感受性は酸素濃度に依存し、低酸素状態では感受性は低下する。(下図左)腫瘍細胞では毛細血管からの距離に比例して酸素濃度は低下する。(下図中)したがって、腫瘍径が大きくなるほど低酸素細胞の割合が高くなり放射線が効きにくくなると考えられている。(下図右)


最近の過分割照射や化学放射線療法などの強力な治療法はこれらの放射線抵抗性腫瘍にはたらき、腫瘍の再増殖を抑えることを目的としている。

通常の放射線治療は1回1.8−2Gy、1日1回、週5日で照射されるが、過分割照射は1回1.1−1.6Gy、1日2−3回、週5−7日のスケジュールで照射され短期間に大線量が照射される。

一方、化学療法の併用により治療効果を高める試みも行われており、第3相試験では照射前に化学療法を併用する順次併用化学放射線療法が照射単独に比べて予後の優れていることが示された(MST: 13.8 vs 9.7 ヶ月)( N Engl J Med 323: 940-945, 1990)。



さらに、最近の報告では全身状態の良好な症例では化学療法と放射線の同時併用療法が順次併用療法に比べて優れている(5年生存率16.5% vs 13.3%)(Clinical Oncology 2692-2699, 1999)(下図)。

また、60Gy/30回/6週の通常分割照射や69.6Gy/58回/6週の過分割照射と比べても化学放射線療法は優れている(2年生存率11.4% vs 12.3% vs 13.6%)(IJROBP 39: 537-544,1997)(下図)。


しかし、同時併用化学療法と過分割照射の組み合わせも試みられたが、通常分割照射での順次併用化学放射線療法や同時併用化学療法に比べて合併症が多く(62%vs30%vs48%)予後の改善は得られていない(MST 15.6ヶ月vs14.6ヶ月vs17ヶ月)(ASCO 2000)。

4)新しい放射線治療の試み
新しい放射線治療の試みとして腔内照射と定位放射線治療があげられる。
定位放射線治療は3次元的に多方向から病巣に集中的に照射する方法で、直径3 cm以下の腫瘍に対して行われ非侵襲的で根治性が高い。わが国の多施設研究では、I期肺癌の治療成績は3年生存率で72%であった。

下図は自経例である。在宅酸素療法を要するCOPDの患者さんである。治療前には左肺門に腫瘍を認めるが(図左)、50 Gy/5回/1週間の治療がおこなわれ(図中)、3ヵ月後に腫瘍の消失を認め(下図右)、3年以上経過するが再発転移は認めていない。



5)小細胞肺癌に対する化学放射線療法
小細胞肺癌は非小細胞肺癌に比べて急激な経過で進行するが、化学療法や放射線療法に対する感受性は高い。小細胞肺癌では1側胸郭1/2以下、同側肺門、両側縦隔、同側悪性胸水、鎖骨上窩リンパ節に限局し化学療法・放射線治療が可能なlimited disease (LD)とそれらを超えて広がり化学療法が適応となるextended disease(ED)に分けて治療方針が決定されている。
LD症例に対する標準的治療は化学放射線療法であり、最近の臨床試験では過分割照射を用いた同時併用療法の予後が優れている(左下図)。(NEJM 340: 265-271,1999)また、わが国の臨床試験では過分割照射を用いた同時併用療法が過分割照射を用いた順次併用療法よりも優れていることが示されている(右下図)。(JCO 20: 3054-3060, 2002)


但し、休止期間をおくと同時併用療法でも過分割照射と通常分割照射とに治療成績の差はみられない(下図)。(IJROBP 59: 943-951, 2004):QDは1日1回照射、BIDは1日2回照射を示す。


6)小細胞肺癌における予防的全脳照射(PCI)
小細胞肺癌では脳転移の頻度が高く、LD症例でCRの得られた症例では予防的全脳照射(PCI)が行われており、脳転移の減少(下図左)と予後の改善が確かめられている(下図右)。(NEJM 341: 476-484, 1999)また、最近の報告ではED症例においても化学療法でCRの得られた症例ではPCIが予後の改善に寄与することが報告されている。(ASCO2007)